2022.11.16

アニメ制作はNFTで変わるのか?

その他

「アニメ×NFT」を語り尽くす3夜連続のオンラインセミナー
ブロックチェーン技術を用いて、デジタルデータに唯一無二の情報を記録できるNFT(Non Fungible Token/代替不可トークン)。現在はアートやゲームアイテムなどへの投資と取引に注目が集まっているが、アニメに適用した場合、どのような可能性があるのか。

今回は、特定非営利活動法人 アニメ産業イノベーション会議(NPO法人 ANiC)主催のオンラインイベント「ANIME×NFTイノベーションカンファレンス2022」の模様をお届けする。

これは、9月23日から25日までの3日間、先駆者・識者を招いてNFTを基礎から学びつつ、交流のきっかけを提供する試み。アニメにおけるNFTの「今」を知るには絶好の機会と言える。まずは1日目のセッション「アニメ制作を加速させるNFT」からどうぞ。


「ANIME×NFTイノベーションカンファレンス2022」が3夜連続で開催された

オープニングセッション:アニメ×NFTで何が生まれるのか?
まずオープニングセッションとして、濱中良氏(Onakama社・ANiC)、柳川あかり氏(東映アニメーション)、まつもとあつし氏(ANiC)が、「NFTとアニメ基礎の基礎」の現状についてトーク。


濱中良氏、柳川あかり氏、まつもとあつし氏

まつもと氏はNPO「ANiC」の代表。ANiCの正式名称はAnimation for Next industrial innovation Conference(アニメ産業イノベーション会議)で、“アニメ産業にどうすれば新しいものを加えられるのか?”という視点のもと「アニメ×イノベーション」イベントや、「アニメビジネス・アワード」の開催といった活動を行っている。


カンファレンスのオープニングセッションは、まつもと氏によるNFTの解説からスタート

セッションはNFTのおさらいから始まった。

クリエイターが、何らかのデジタルアートを作ったときのことを考えてみよう。まずはアートを「発行」する。従来であれば、デジタルアートは簡単にコピーできてしまうため、権利を守ったり収益化したりといったことは簡単ではなかった。しかし、ブロックチェーン技術を組み合わせることで、唯一無二のデータであると証明することが可能になった。


NFTを使えば、デジタルデータも唯一無二のデータであると証明できる

NFTと紐付いたデジタルアートは、「OpenSea」(オープンシー。NFTの作成や購入、出品ができるNFTマーケットプレイス)などで「売買」できる。デジタルアートに買い手が出現したことで、クリエイターに還元することが可能になった。昨今では取引価格が高騰、たびたびNFTでのデジタルアート売買がニュースになるほどだ。

さらに、本物であるというデジタルの証明が付与されているため、NFT作品の「n次流通」も技術的には可能となった。

アートの市場では、価値があると認められた作品は、市場で価格が高騰していく。デジタルアートの世界でも同様の現象が起こるのでは……という期待が高まっている、というのが2022年後半の現状だ。

しかし、懸念点もある。NFTの売買に関して詐欺行為が発生する可能性、そして自分が描いたデジタルアートが第三者の手によって勝手に登録され、そのまま売買されてしまう著作権侵害も考えられる。

また、1ビットでもデータが異なれば証明不能になるというNFTの仕組みが、流通の上で問題を起こす可能性もある。

もっとも、NFTが話題になり始めた時期に見られたようなバブルは収束していると、まつもと氏は見る。2022年8月30日には、「OpenSeaの取引高が、ピークの5月より99%減少した」という記事が出たほどだ。


NFTのバブルは去ったが……

もっとも、「これでNFTがダメになったわけではなく、一旦ブームが去ってから定着が進んでいくという面もある」とまつもと氏は語る。

では、アニメとNFTをかけ合わせたときに何が生まれるのか。制作の資金調達、完成してからの回収に幅が広がっていくのではないか……というのが、まつもと氏の見立て。その可能性とネットワークを広げるのが、本カンファレンスというわけだ。

このカンファレンスが企画されたきっかけは、柳川あかり氏のFacebookでの投稿だという。その柳川氏は、なぜこのようなイベントを開催してほしいと考えたのだろうか。

柳川氏は、東映アニメーション株式会社所属のプロデューサー。アニメキャラクターの版権管理及び版権営業等のライセンスビジネスの経験を経て、2016年に企画部へ異動。これまでプロデュースした作品に『おしりたんてい』『スター☆トゥインクルプリキュア』『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』などがあり、現在はNFTやメタバースの新規事業などを担当している。


本カンファレンスの開催のきっかけになったという柳川氏が、その理由を解説

2021年の夏頃からNFTとアートの組み合わせを耳にしていた柳川氏は、仕事としても個人としても興味を持っていたという。

そして2022年1月、「Azuki」(ロサンゼルス在住の30代の男性5人組が売り出した、アニメ調のキャラクターの8700点のNFT。2900万ドル以上の収益を上げ、二次流通でそれ以上になったという)のヒットを皮切りに、アニメ系のNFTが注目を浴び、乱立する事態になった。

「ジェネラティブアートのNFTが、一大ジャンルとして成立したと思う」と語る柳川氏は、それらが日本のアニメのビジュアルから影響を受けていることを嬉しく思った反面、「なぜこれがアニメ業界の中から出せなかった」という悔しさも感じたという。

「アニメ業界の中から、『NFTをどう考えているか?』という声が増えてほしい。端的に言うと、それが今日のようなイベントを開いてほしいと思った理由」と語る柳川氏。関係者視点でも、ファン視点でも、日本発、アニメ業界発のプロジェクトが増えてほしいと語る。

そして、柳川氏がNFTに期待することとして、NFTの基盤となっているブロックチェーン技術や、DAO(Decentralized Autonomous Organization/分散型自律組織)のような、特定の所有者や管理者が存在せずとも事業やプロジェクトを推進できるコミュニティなどが、アニメ業界が抱えている課題を解決し、選択肢を広げていくことに活かされるといいのではないか……と述べた。

NFTオリエンテッドなIP、『Zombie Zoo Keepers』

ゲストのLEG氏と高山晃氏が加わり、4人でセッションがスタート

オープニングセッションのあと、ゲストとしてLEG氏と高山晃氏が加わり、「アニメ制作を加速させるNFT」をテーマにしたセッションがスタート。まずはゲストが各々のNFT活用事例を紹介することに。

最初に紹介されたのは、オープニングセッションに引き続き、柳川氏。プロデューサーの立場として、NFTの活用を考えることはもちろん、NFTユーザーとして作品を購入してみたり、自分自身でOpenSeaを活用したりといった経験があるという。

柳川氏は自身が関わっている“日本初のNFTアニメ化”を謳った『Zombie Zoo Keepers』を紹介した。柳川氏によれば、「国外ではそれ以前から、日本でもおそらく個人クリエイターさんは作品を作っていたと思う。これは日本では初めてとなる企業発のNFTアニメ化」だという。


9歳のNFTアートから生まれた作品『Zombie Zoo Keepers』

『Zombie Zoo Keepers』は、日本のNFTアートシーンで有名になったZombie Zoo Keeper氏(9歳)のアートを原案としたNFTオリエンテッドなIP。NFTクリエイター、Play-to-Earnなど、未来のスタンダードになりうるテクノロジーが登場する世界観が特徴だ。

この『Zombie Zoo Keepers』の特徴として、国内のアニメ作品では一般的となっている、複数話のストーリー展開ではなく、まずは1分尺のMVという形で公開している(2022年5月)点が挙げられる。これは、流れが急速なNFT市場の中で、原案が盛り上がっているタイミングで作品を届けるためだ。


NFTを軸にしたIPであるだけでなく、未来のスタンダードになりうるテクノロジーを世界観に盛り込んでいるという

柳川氏によれば、最初にこの作品を観て喜んだのは、原案であるZombie Zoo Keeper氏の作品を応援している人たちやコレクターであり、実際のアニメ化に立ち会えた喜びをSNSなどに投稿している人が多かったという。

「本当に価値のある作品を作っていくこと」をめざす
続いて紹介されたのは、LEG氏。元スタジオたくらんけ所属、現在は株式会社OPTならびに株式会社デジタルホールディングスに所属し、映像やデザインを幅広く手掛けるクリエイター。ANIMというWeb3テクノロジーを活用した新しいコンテンツ制作の潮流を創るプロジェクトの代表も務めている。

「新しいアニメのIPをNFTを軸に作り上げていくというムーブメントが、海外では2022年2月くらいから本格的に始まったのでは」と見るLEG氏。その流れを見て『なんでこれが日本のアニメ業界でできなかったのだろう』と考えたことが、ANIMの立ち上げのきっかけになったとのこと。


日本コンテンツ産業への危機感が、ANIMを企画した理由だという

しかし、会社を軸に立ち上げようと思うと、Ethereumの扱いや、会計の都合など、動きにくい部分もある……とLEG氏は感じたという。そこで、業界の内外から有志を集めて立ち上げてみるところからスタートした。

「海外のプロジェクトが新しいアニメIPを仕掛けようとしている、予算もある。しかし、(アニメを制作する)ケイパビリティを持っているのか、ちょっと疑問を感じている」「一過性のブームで何もできない、実行するところまで落とし込むのは難しいのでは」と懸念を語るLEG氏は、「逆に、本当に価値のある作品を作っていくことがNFTでできれば、NFTで立ち上げた事業の1周目が作れる」と述べた。

その流れから、動物をモチーフにした、クリエイターを象徴するアイコン「ANIM PFP」を紹介。これは、日本でひたむきに働く人たちを動物に喩えた、6600枚以上のジェネラティブコレクションとして立ち上げているPFP(Profile-Picture)だ。


膨大な点数のジェネラティブコレクション「ANIM PFP」

この収益をもとに、アニメーションを制作していくという事業モデルを考えつつ、回収した収益でさらに作品を作り続ける、ホルダーに何かしらの還元を目指すという流れが、ANIMの目標だという。


LEG氏が提示した、ANIMの「双方向のメリットがある関係構築」の図

まつもと氏は、LEG氏のスライドから「ANIMとファンが永続的につながり続ける仕組み」という8の字型の図に注目。LEG氏によると、起点となるもの(たとえば「ANIM PFP」)があり、その特典の授受で、ファンから出資が集まる。起点から集めた資金をもとに制作を行い、作品の配信や版権利用で起点に戻ってくる……というイメージだという。

まつもと氏は「PFPを起点としたアニメ、ライセンスを用いたベーシックな形が確立しつつある。そのように理解できた」と説明した。

NFTを通じてファンが制作に参加できる可能性を見出す
高山晃氏は、株式会社ファンワークス ファウンダー&代表取締役社長。広告代理店、ドラマ/アニメ制作会社を経て、2005年に株式会社ファンワークスを設立。ウェブアニメ『やわらか戦車』を皮切りに、『がんばれ!ルルロロ』『ざんねんないきもの事典』『チキップダンサーズ』などのテレビアニメシリーズのほか、Netflix『アグレッシブ烈子』『映画すみっコぐらし』『映画 ざんねんないきもの事典』など、さまざまなキャラクターアニメーション作品のプロデュースに関わっている。

高山氏が紹介したのは『CryptoNinja』という、2021年9月にリリースされたNFT IP。プロデューサーはイケダハヤト氏。2021年12月でおよそ6500万円の売上があり、無許可での商用利用を全面的に開放しているのが特徴だ。


ファンワークスの高山氏はNFT×アニメの例として『CryptoNinja』を紹介

『CryptoNinja』には、「Ninja DAO」という4万人のユーザーを抱える世界最大級のDAOコミュニティがあるほか、P2Eゲーム用NFTの販売金額は2億円を突破しているという。ほかにも二次創作NFT「CNP Jobs」、「CryptoNinja Partners」という2万2222点のNFTコレクションなども存在する。

そして、アニメ制作とNFT開発のメンバーが集まり、LLPである「CryptoAnime Labs」を組成。新しいテクノロジーでクリエイターとファンが一体になる方式の設計・確立を目指すとしている。


「Web3時代のアニメ制作委員会」を提示。スライドでは「製作」となっているが、高山氏曰く「“制作”。ものづくりをする人と企業の垣根をなくすというコンセプト」

具体的なNFTの活用としては、「パスポートNFT」「手裏剣NFT」の2つを用意し、まずはコミュニティの作成に活用、関係者への持続可能な活動支援と還元モデルを目指すという。

高山氏によると、パスポートNFTについては、「具体的なことはまだ言えない段階ではあるが」と前置きしつつ、イメージとしては「ファンクラブのようなもの」だと語る。ユーザーとコミュニティを作りつつ、DAOなどと連携させ、「手裏剣NFT」を発行していくことでさまざまなサービスを実現させるという。

まつもと氏は、「たとえばクラウドファンディングだとユーザー側が関わるのは難しかったが、NFTを活用することでアニメの製作工程のさまざまなところにファンが何らかのクリエイターとして参加できる、還元もある。かなり意欲的な話だと理解した」とまとめた。

NFTとアニメビジネス、相性の良さはどこにある?
セッションは各々の紹介を経て、ディスカッションに移行。「NFTはアニメビジネスのどの部分と相性が良いのか?」というテーマからスタートした。


アニメ×NFTというテーマを掘り下げるディスカッションへ展開

まず柳川氏は、「いろいろな答えができると思う」として、「皆さんがおっしゃるところで言えば、既存のデジタルデータを商品化できる。NFTを扱えるプラットフォームもさまざまなフォーマットに対応している。在庫を持たずしてデジタルの商品販売ができるだけでなく、グローバルな市場へも展開できるのが魅力」と話す。

ただ、それだけであれば、NFTである必要はないと指摘し、「二次流通を収益化できるのがポイント。今まで、なかなか中古のものは公式に戻ってこなかったが、ブロックチェーン技術とスマートコントラクトの設定などによって配分されることがNFTの長所」と話した。

これを受けてまつもと氏は、「デジタルでNFTであるがゆえに、二次流通の中でも、トラッキングすることで大元の著作者に還元することが技術的には可能」と賛同した。


4人がNFTの長所、活用法について熱く議論を交わす

LEG氏は、ビジネスと相性が良い部分として、「NFTやブロックチェーンを活用することの本質はなんだろう、と考えたときに、『無形価値の可視化』ではないかと思っている」と提示する。

「たとえば人の夢とか努力とか、心が動いた幅とか。それを可視化することも、記憶を留めておくことも難しい。デジタルデータも似ているように思う。無限にあるようで、何もなかったりする」「そういうものをブロックチェーンを介することで、『これはいくらです』と証明できる。体験とか感情とか、無形なものに誰がいくら価値を払ったのかが、世界中の誰でも証明できるようになった。それが革新性が一番あった部分だろう」とLEG氏。

そして、アニメとの関係性について、「作品に参加できる感情的な体験や、原画だけではなくそこに乗ってくるストーリーなどにも、価値が生まれる可能性がある。これからアニメーションを作っていきたい、このアニメーションを作ることで世の中に伝えていきたいという、生まれる背景にも価値が付くことで、入り口、伝える相手が広がっていく」と述べる。


無形なものにも価値を付けられるようになったという点に注目するLEG氏

さらに、「成果物、アセットが売れるというより、アセットが持つ意味が売れるようになってきたというのが本質だと思う。絵があれば売れる、というのは今までのデジタルデータと変わりがない。NFTを使うと、そこに価値を付けた人がいる、それを誰が見ても絶対的な証明がある、というところが違う。そういうことを考えるといろいろな発展の仕方があるのでは」とまとめた。

まつもと氏はこれを受けて、アカデミックな世界でNFTの話をするときに「外部経済」という言葉が出てくることを挙げる。経済は貨幣などで表現するが、アニメへの魅力や愛などは数値で可視化できない。だからこそ、国の政策などで取り上げられた際に評価がしづらく、予算を付けにくい……とまつもと氏は述べる。NFTを活用することで、そこが可視化できるという点がメリットであるとした。

続いて高山氏は、『CryptoNinja』のキャラクターと世界観について述べた。プロデューサーには、「いい意味で、自由にやってください」と言われたという。


『CryptoNinja』に関して、プロデューサーに「自由にやってください」と言われたという高山氏

設定を基に作っていくのはもちろんだが、「設定通りに作ったら面白くない、工夫を加えたい」ということで、「甲賀シティ」という街を舞台にしたり、現代風にアレンジしたりと工夫を凝らしているという。そういったことを面白がることで、クリエイターのやる気を作る仕組みができているのではないか……とする。

まつもと氏は「世界観などについて生まれる愛着みたいなものは、今まで企画者や発案者の中で練り込まれていた。NFTを活用することで、そこから開放されるのではないか」と話す。

高山氏も「原作者の方も、話してみると『ここは崩してほしくない』ということは言う。イケダハヤトさんはどちらかというと、神の視座というか、街づくりのような感じで捉えている。『この街はこの人がやってくれればいい』という感じなので、それはありがたいなと思う」と話した。

NFTをアニメに活用する「ポイント」はどこにあるのか
「アニメ制作を加速させるNFT」というセッションのテーマに対して、まつもと氏は「ゲストの皆さんの話を聞いていると、“特定のどこか”ではなく、あらゆるところに可能性があるように見えます。それでも、あえて言うなら、ポイントはどこにあると思うか?」と柳川氏に問いかける。


さまざまな活用が考えられるNFTだが、各人が考える「ポイント」は?

柳川氏は「いろいろなアニメのファンとして思うのは、“推し”を布教したいパワーはすごいと思っている」と話す。「NFTの場合、ファンの体験価値として面白かったり新しかったりするだけではなく、『公式』『原作者』というところにも経済的な価値を生む、皆が喜べる循環が生まれる点にポテンシャルを感じる」と続ける。

これを受けてまつもと氏は、「柳川さんが一企業人として、成果を上げて次の事業につなげていこうとする際に、最も経済的な効果が上がるのはデジタル流通を用いた商品化であるからこそ、“NFTが有効である”という結論に至った……という理解でいいか」と質問。

それに対し、「確実に実績を上げられる……という点で言うと、難しいところではある。『投機に偏っている』という批判の部分もあるとは思うが、特にNFTのジェネラティブアート、PFPコレクションなどは、最初はホワイトリストという先行権利を持った人がプレセールスで安く購入し、その後に高く売られて、評価されていくと価値が上がっていく……というのが、皆が喜ぶ道筋ではある」と柳川氏は返答する。

さらに、この仕組み自体は版画などの美術品で昔から存在するもので、「すごく伸びしろがあると思っている。ここに上手くアニメを使うことで、コンテンツを広く長く届けることができればと」とまとめた。


美術品のように、NFT作品にエディションを付けて売っていく形に伸びしろを感じると語る柳川氏

まつもと氏は、「これまでアニメは多くの人に薄く広く利用されることによって収益が還元されるものだった。一方、美術品は価値循環をしていく一点物。この要素をNFTを活用していかに良い形で実現できるか」と話す。

重ねて、実際にNFT作品を作成・販売しているLEG氏に、「一点物のNFT作品の価値を認め、対価を支払ってもらうことができる。それが二次、三次流通していくことで価値が増えていく……ということを、どのように実現していきたいか」と尋ねる。

LEG氏は「経済的価値ということでいうと、2点ある」と返答。1つ目は、リターンがある/ないという点。「最初の入口は、作品が成功し、売上が出て、何かしらのリターンが出るということを想像していく。作品を作って、何かしらの収益を上げる、ということに挑戦している」

では、2つ目はなにか。「『無形価値の可視化』が、大きな部分かと思っている」とLEG氏は語る。「リターンはないにせよ、ファンエコノミーをより直接的かつ高速にする仕組みかなと思っている」「たとえば原画マンが描いた絵をNFTにしてユーザーに売れば、ダイレクトに届く。“推し”活動が、製品を買うと何%かスタジオに入る……ではなく、直接的に“推せる”。ファンエコノミーの加速装置となる」と話し、「この2点が、今後NFTを使う大きな意味になってくるのではないか。そこをいかにデザインするかがポイントかなと思う」と展望を述べた。

NFTのバブルが終わっても、アニメ業界には定着するのではないか
まつもと氏は「DAO的なファンを巻き込んでの経済圏ができる一方で、THE BATTLE(「CryptoAnime Labs」にて『CryptoNinja』のアニメ化プロジェクト、ブロックチェーンゲーム『Isekai Battle』の企画開発などを手がける)のように、NFTの事業を形作る、運用しないといけないという役割もある。そういった役割分担に関してはどう思うか」と高山氏に質問。

「ファンワークスという会社自体、モジュールのような会社を作ろうと思っていた」と語る高山氏。「いいモジュールでいいチームを作っていくことに関してはポジティブだと思う。THE BATTLEさんのような事例でそういう会社が出てくることで、運用やプロジェクトが活性化することはいいこと」とする。

ゲスト3人の意見に対し、まつもと氏は、「みなさんのお話をうかがっていると、Web3の文脈で言われている、すべてが自律しすべてが『個』であるDAOということではなく、従来の製作委員会の枠組みも組み合わせながら、結構ハイブリッドな試みなのだなと思った」と感想を述べた。


まつもと氏が見出したのは、DAO的な非中央集権的な仕組みだけではなく、従来の枠組みと組み合わせたハイブリッドな形

そして、まつもと氏が話題にしたのは、9月22日にABCアニメーションがWeb3領域進出に伴い、THE BATTLEとの業務提携を発表した件だ。従来の製作委員会方式で動いていた企業と、NFTを専業とする新しい企業の連携について、プロデュース業務を手がける柳川氏はどう思っているのだろうか。

柳川氏は「ただただ尊敬の念しかないというか。企業として実現させようとすると、Web3で理想とされている形はいろいろなハードルがある。そういった中で、2021年から仕込んでようやく花開いたプロジェクトがいくつもあるなと思う。すごく嬉しい。こういったものがアニメ業界から出てきてほしい、異業種からコラボしてきてほしい」と期待を寄せた。

さらに、「最近気になったものは、今週だけでも2つある。まず、メディバンさんがTVアニメ『4人はそれぞれウソをつく』の製作委員会に参画し、アニメ放送開始を記念して4444枚のNFTを無料配布を発表した件。そして、ゴンゾさんが2021年7月というかなり早い段階で『SAMURAI cryptos』というプロジェクトをやられていて、ストーリー原案コンテストを始めていること。アニメ制作会社や関連会社が関わっている案件が増えている、という印象がある」と柳川氏は述べる。

それらの流れを、まつもと氏は「ある意味、象徴的」と見ているという。「NFTのバブルが終焉だと言われているタイミングで、今度はアニメ関連の流れが来た。アニメって長い目で見ると環境変化に対応しているんだけど、反応が速いわけではない。だからこそ、アニメの件が急に増えたということは、NFTが定着する兆しじゃないかと私も期待している」

NFT×アニメに必要なことは?
最後のテーマとして、まつもと氏は「まだまだNFTには未整備な事柄も多い。法律的な面、著作権など、既存の部分と衝突するところもある。実際にやっている3人に、何が必要なのか、最後に聞きたい」と話す。

高山氏は、「何が必要かというと、『相互理解』かな。Ethereumという変動するものをどう考えるか、NFTの窓口も定着していないが……といった課題はあるものの、たぶん解決できないことはあまりないと思っている」と切り出す。

続けて、「NFTに付加的なものを持たせたとき、たとえばグッズ化となったら、NFTの中で商品を出していいかどうか、海外をどう考えるかなど、結構ぐしゃぐしゃになる」「もしかすると、東映アニメーションさんみたいな1社が全部やってしまったほうがいい、という考えもあるし、もっと小さなコミュニティでやるというのもある」と話す。


「相互理解」をキーワードに挙げた高山氏

「委員会的なモデルでいうと、ウチなんかはいろいろな会社さんと対話しながらやっている」「難しい部分もあるが、日本のコンテンツ会社は、テレビ局さん、代理店さんを含めて、寛容だなと思っている。つまり、『現在のモデルのまま続けるのはまずいんじゃないか』という危機感がある。大きな会社ほど危機感を持っている人、エッジが立った人がいる」と話し、そのような人たちと問題を1つ1つ解決していくことが大事だと提示した。

これに対してまつもと氏は、「海外の大口配信事業者からの制作資金供給を受けることで、アニメ制作会社は一時的に安定していたが、近年ではその先行きが見えなくなってきたという状況がある。そんな中、配信に替わる新しい形を模索している人たちの間で『NFTは有益だ』という共通認識ができつつある」「そこの仕組みづくりも、高山さんが言うように柔軟に対応している。従来のやり方を守らなきゃいけないという共通認識もありつつ、新しい要素を入れていく、新しい動きが出てくるのではという期待がある」とまとめた。

続いては、LEG氏。「Ethereumが関わると、通期の決算時に税金がかかってしまうなど、改善してほしいと思うところはある。ただ、それ以上に……質問の回答とズレるかもしれないが『1周回す』みたいなところが一番必要かなと思っている」と話す。

「今はなんとなく形が見えてきたところ。コミュニティの人たちのどのように協力して作品を作り上げていくか、いかに収益を上げて還元するかなど1周回して結果を出してみたところはまだない。回さないと『何が課題なのか』『本当に必要なものは何か』がわからないと思う」

「プラス、1周することで何が起きるかというと、こういうことを真面目にやっているところがあるんだ、という実績になる。現状、売って、終わって、去っていくというプロジェクトも山ほどある。結局、『詐欺のほうが多くないか?』となって、業界が前に進まない」と、LEG氏は警鐘を鳴らす。

「課題感などもその場で拾いながら、1周回してみて実績を作ることが必要な段階」だという。


アニメ×NFTの組み合わせを「まず1周回してみる」ことの重要性を説いたLEG氏

それを受けて、まつもと氏は「アニメのファンの存在が大きいかなと思っている。NFT界隈では、『所有するか否か』といった問題、課税の問題などもあるが、アニメのファンは直接的な、金銭的な価値以外を認めて、かつ、愛情が持続するのが特徴」「持続する上で、1周回ってさらに2周目行くぞ、という流れに消費者が付いてきてくれる期待がある。アニメとアニメファンにとって、NFTは相性が良いのかなと思った」と感想を述べた。

最後に話したのは、本カンファレンスの発案者でもある柳川氏。「課題として感じるのは大きく分けて2つある」と切り出す。

1つ目は、NFT界隈とアニメのスピード感のギャップが大きい点。「NFT市場はトレンドが移り変わるのがすごく速い。事前に計画を決めるのが難しいが、今のNFTアートに求められていることは、売って終わりではなく、それを継続して持っていることでどんな価値を得られるのか、というところだと思う」

「それをアニメの会社として提示するのが難しい。アニメ制作はテレビシリーズだと2~3年かけてようやく放送されるというスピード感。NFT界隈とギャップがある」

2つ目に挙げたのは、「文化のギャップ」だ。「今の段階では、技術面をアニメ業界ですべて完結させるのは難しい。そこで異業種の皆さんとコラボしていくときに、異なるカルチャー、習慣を持っている中で、NFT業界の速いスピードに合わせ、かつその溝をどうやって埋めていくのか」と語る。


柳川氏はアニメとNFTの組み合わせに「2つの課題」があると述べた

柳川氏は、この2つの課題に対して、「ギャップを通訳したり、橋渡ししたりしてくれる人が今後重宝されるというか、必要になってくる。既存のビジネスじゃないことをやるのは大変で、そこに愛だったり熱量だったりが必要だけれども、やってくれる仲間が増えてくるといいなと思う」と期待を込めて話した。

これを受けたまつもと氏は、「スピード感の問題は大きいと思う。自分も実務の現場にいたのでわかる。配信については適応するまで10年くらいかかったが、そのスピード感だと置いていかれてしまう。いかにネジを巻いていくか。ゲストの皆さんも全力疾走されていると思うが、私たちANiCとしても、そういった人たちをつなげる、今日のような形で場を提供するお手伝いをしたい」と頷き、セッションは終幕した。